【心理・文化学科】心理学コース・研究紹介(押岡 大覚教授)
【国際学術誌に研究論文が掲載されました】
本学人間科学部 心理・文化学科の押岡 大覚教授(臨床心理士・公認心理師・博士(心理学))の研究論文が,アメリカの出生前・周産期心理学と健康学会(APPPAH)が発行する学術誌「Journal of Prenatal and Perinatal Psychology and Health」第40巻第2号に掲載されました(2026年9月23日公開)。
論文名:
Representations of Prenatal Experiencing Across Languages: An Integrated Analysis Using Bayesian Hierarchical Modeling and Random-Effects Meta-Analysis.
(邦題:言語をこえた胎生期体験過程の表象――階層ベイズモデリングと変量効果メタ解析による統合的分析)https://doi.org/10.62858/apphe40205
押岡教授らは2020年にも同じ学術誌に論文を発表しており(Oshioka & Ozaki, 2020),この論文は2023年に同学会の国際会議で「優秀研究賞(Spirit of APPPAH Award for "Outstanding Research")」を受賞しています。今回の論文は,その研究をさらに発展させたものです。
【研究紹介(押岡教授による)】
私たちの心は,いつから始まるのでしょうか。心の発達を説明する理論の多くは,生まれた時からその話が始まります。
実は,赤ちゃんはお腹の中にいるときから,音を聞き分けたり(Hepper, 1991; Partanen et al., 2013),味やにおいに反応したりしていること(Mennella et al., 2001)がこれまでの研究でわかっています。しかし,そうした経験のなかで,言葉や概念になる前の(前言語的・前概念的な)心の働きがどのように形づくられ,深まっていくのかについては,まだほとんどわかっていません。
私は,この問いに近づく手がかりとして,「お腹の中にいたときの記憶」を題材にした絵本に注目しました。2020年の論文で分析した日本語の絵本に加えて,英語,フランス語,イタリア語の絵本も集め,お腹の中の赤ちゃん自身の経験が描かれたテキストを明確な基準に基づき抽出しました。そして,それぞれのテキストについて,「からだに感じられていることに,どれくらい深く触れることができているか」を測定することが可能な物差し――体験過程尺度(Klein et al., 1969)――で,複数の評定者がそれぞれ独立に評価し,言語ごとに比べました(体験過程尺度による評定は,23冊・509セグメント(テキストのまとまり)について行い,延べ1,988件にのぼりました)。その結果,二つのことがわかりました。
一つ目は,4つの言語のどれについても,お腹の中での生活を「からだで感じられた意味をともなう経験」として描いた場面が見られたことです。23冊のうち22冊に,そのような場面が含まれていました。今回調べた絵本では,言葉や文化が違っても,胎内の経験が似たかたちで描かれていたといえます。

二つ目は,物語が誕生の場面に近づくにつれて,からだで感じられた意味がしだいに細やかに言い表されていくように描かれているかどうかには,言語ごとに違いが見られたことです。英語の絵本では5冊すべてでそのような流れが見られました。日本語とイタリア語の絵本でも同じ方向の傾向はありましたが,はっきりとは確かめられず,フランス語の絵本ではほとんど見られませんでした。

ここで大切なのは,この研究でわかった二つのことは「絵本作家たちが,その感性によって胎内の経験をどう表現しているか」であって,「胎児が実際に何を感じているか」とは区別して考えなければならないという点です。また,英語,フランス語,イタリア語の絵本は日本語に訳してから評価したため,翻訳による影響がなかったかどうかも,今後確かめる必要があります。
お腹の中から生まれた後まで続く「心の連続性」を明らかにするには,まず,人々がお腹の中の経験をどのように語り,描いてきたのかを丁寧に調べることが大切です。今後も,言語や文化をこえた比較を進めながら,この研究課題に取り組んでいきたいと考えています。
【文献】
Hepper, P. G. (1991). An examination of fetal learning before and after birth. The Irish Journal of Psychology, 12(2), 95-107.https://doi.org/10.1080/03033910.1991.10557830
Klein, M. H., Mathieu, P. L., Gendlin, E. T., & Kiesler, D. J. (1969). The Experiencing Scale: A research and training manual (Vol. 1). Wisconsin Psychiatric Institute, University of Wisconsin.
Mennella, J. A., Jagnow, C. P., & Beauchamp, G. K. (2001). Prenatal and postnatal flavor learning by human infants. Pediatrics, 107(6), e88.https://doi.org/10.1542/peds.107.6.e88
Oshioka, D. (2026). Representations of prenatal experiencing across languages: An integrated analysis using Bayesian hierarchical modeling and random-effects meta-analysis. Journal of Prenatal and Perinatal Psychology and Health, 40(2). 1-18.https://doi.org/10.62858/apphe40205
Oshioka, D., & Ozaki, Y. (2020). Study of prenatal experiencing-modality from developmental clinical and "kansei" psychology perspectives. Journal of Prenatal and Perinatal Psychology and Health, 34(4), 318-334.https://birthpsychology.com/wp-content/uploads/journal/published_paper/volume-34/issue-4/7KaQmowo.pdf
Partanen, E., Kujala, T., Näätänen, R., Liitola, A., Sambeth, A., & Huotilainen, M. (2013). Learning-induced neural plasticity of speech processing before birth. Proceedings of the National Academy of Sciences, 110(37),15145-15150.https://doi.org/10.1073/pnas.1302159110
【受験をお考えの皆様へ】
心理学コースでは,押岡教授の授業やゼミを通して,胎児期から始まる心の発達や,からだに感じられた意味を大切にする心理療法(フォーカシング)など,この研究につながるテーマを学ぶことができます。
押岡教授の研究領域は,今回紹介した「胎児の心に関する研究」と,臨床心理士・公認心理師といった「心の専門家を育てる方法の構築とその効果に関する研究」の二つが柱です。心の専門家をめざす学生向けの授業も担当しており,最新の研究と臨床実践の双方に触れながら学びを深めることができます。
「心はいつから始まるのか」という問いのように,心理学には,答えの出ていない問いがたくさんあります。心理学コースでは,まだ誰も答えを知らない問いに向き合ってみたい方をお待ちしています。
お問い合わせ先
九州女子大学 入試広報課
TEL 093-693-3277
E-mail koho@kwuc.ac.jp